水と緑のオアシスとっとり2013

10月3~5日の2泊3日で、鳥取県で開催中の「第30回全国都市緑化フェア・水と緑のオアシスとっとり2013」の取材旅行に出かけました。緑化フェアのメイン会場となる「湖山池公園」と、サテライト会場の「とっとり花回廊」の様子をお伝えします。
※ オールアバウトで掲載終了した記事を再編集しました。内容は公開時のものとなります。

フェア概要

「緑豊かな街づくり~窓辺に花を くらしに緑を 街に緑を あしたの緑をいまつくろう~」を統一テーマに開催される「全国都市緑化フェア」、第30回は鳥取県を会場に開催。
今回は世界ジオパーク(世界的に貴重な地質、地形、火山などの地質遺産を複数有する自然公園)の一つ(※1)、山陰海岸エリア(京都府・兵庫県・鳥取県)での開催ということもあり、地域の自然を活かした「鳥取流緑化スタイル」が注目されます。

テーマガーデンは、著名なガーデンデザイナーであるポール・スミザー氏による、鳥取の風土に合う郷土の植物を使用したナチュラルガーデンです。また、開催テーマに基づいて、多くの県民の参加によりフェアを盛り上げていこうという意気込みに、訪れる側の期待も自ずと高まります。


「第30回全国都市緑化とっとりフェア」
愛称・水と緑のオアシスとっとり2013
テーマ:「ともに育てる身近な緑」~水と緑につつまれた世界ジオパークのまちから~
期間:2013年9月21日(土)~11月10日(日) 51日間
主会場:湖山池公園
サテライト会場:とっとり花回廊(※2)
        東郷湖羽合臨海公園(燕趙園、あやめ池公園)
開場時間:9:30~17:00(11月は9:30~16:30)
主会場入場料金:大人 600円、小中高生 300円(セット券や団体割引あり)
※1.日本では、北海道・洞爺湖有珠山、新潟県・糸魚川、長崎県・島原半島、高知県・室戸、島根県・隠岐が世界ジオパークに認定されています。
※2.とっとり花回廊の入園料、開園時間はホームページでご確認ください。

 

メイン会場「湖山池公園」

地の利を活かした庭づくり
これまで何度か「全国都市緑化フェア」を取材しましたが、その土地ごとの特色を打ち出したガーデン展示がありました。
鳥取といえば、やはり砂丘を思い浮かべる方が多いことでしょう。今回のフェアでは、その砂を使った砂像が取り入れられた展示があります。

まずは下の画像のエントランスガーデンですが、こちらは「砂の美術館」総合プロデューサー茶圓勝彦氏制作による砂像を中心とした展示となります。まだ鳥取砂丘を訪れていない方も、いかにも「鳥取に来たなぁ」と実感させられるでしょう。


入場ゲートをくぐると、フェアをPRするマスコットキャラクター「花トリピー」のトピアリーと、山や滝、棚田といった鳥取の風景を表現した「ウエルカムガーデン」が来場者を迎えてくれます。
 

イベントステージや美味しそうな匂いのする飲食コーナー「じげ市場」を横目に進むと、「乾きやすく、濡れると崩れやすい砂」と「水が必要な植物」の異色コラボレーションを実現させた、巨大な砂のフラワーポットが鎮座する「ナチュラルガーデンエントランス」になります。
こちらは、とっとりフェア監修のガーデンデザイナー、ポール・スミザー氏による特別展示で、「ビオダイヴァシティー(生物多様性)」をテーマにしています。

 

砂像制作を担当された方からお話を伺うことができましたが、土台作りは型枠の中に砂と水を入れてしっかりと圧をかけ、ギュウギュウに押し固めた後で彫刻を施すそうです。この辺りは、「雪まつり」に使われる雪像と似ているかもしれませんね。
ただし今回は植物を植えこむので、そのための配管なども仕込まれているとのことでした。この新しい試みには、様々な苦労があったであろうことは、想像に難くありません。
このナチュラルガーデンエントランスを抜けて橋を渡ると、いよいよ今回のフェアのメインガーデンとなる、「ナチュラルガーデン」です。

シンボルツリーをバッグに
ガイドをするポール氏


本当のナチュラルガーデンとは

これまでこのガイドサイトでもたくさんの庭をご紹介してきましたが、その中にはいわゆる「ナチュラルガーデン」と呼ばれるものも少なからずありました。しかし今回のフェア会場を訪れポール氏のお話を聞くと、いままで「ナチュラルガーデン」と呼んでいたものは「ナチュラル風」とか「ナチュラルテイストな庭」であり、本当のナチュラルガーデンとは言えないのかも……という思いに至りました。

ナチュラルガーデンとは、自然の風景を手本とし多年草や樹木など様々な植物を使った「自然な感じのする庭」であるとか、実際にはあれこれと頭を使ってデザインしていても「作為的に見えない庭」という定義付けができると思います。ですが本フェアのメインガーデンは、更に一歩進んだ……という表現があっているかはわかりませんが、これまでのイベントガーデンとは一線を画するものでした。

ナチュラルガーデンへと繋ぐ橋から湖山池を臨む
 
満開のオミナエシ

2013年の全国緑化フェアの開催が鳥取と決まり、そのメインガーデン制作の話がもたらされたとき、ポール氏はやんわりとお断りの意味で「自分が引き受けたら3年はかかりますよ」と言ったら、「ぜひ、長く残る庭をお願いします」と返されたとのこと。そこから湖山池のナチュラルガーデンは始まりました。

ネズミガヤがこんなにきれいだったとは!
まずは現地の環境を確かめ、植栽する植物を選ばなくてはなりません。このガーデンには地元の植物がたくさん使われています。
オミナエシやススキ、ナデシコにキキョウなど誰もが知っているような花や、ファウンテン・グラスと言えばおしゃれな感じがするけれど、ネズミガヤやチカラシバといった雑草と思われているものもふんだんに植えられています。

一見して派手さはないものの、鳥取に根ざした植物たちがそれぞれが強い自己主張をすること無く共生している姿は、見る者の心を穏やかにしてくれます。
珍しいから、流行りだから……と、ポンと持ち込まれた植物は目を引くかもしれませんが、悪くすると「浮いて」しまいますよね。また、手入れにも気を使ってしまいます。地域にあった丈夫な植物で植栽すれば、手入れも簡単で長く楽しむことができます。

レイズドベッドの石積みは、鳥取城がお手本に。
座れるように少し石を出しているところも

レイズドベッドのナデシコの足元にもマルチングが
もう一つ、今回とても勉強になったのは、薬や肥料に関することです。このガーデンでは肥料や薬を使っていないそうです。なぜなら、それらを使うといずれ池に流れていってしまうからです。
本来、健康な植物には自分を守る力があるので、薬は必要ないはずです。通常厄介者扱いのいわゆる「害虫」と呼ばれる虫だって、いなければ益虫や益鳥も存在することができなくなります。
また腐葉土やバーク堆肥などで株元をマルチングしてあげれば、やがてそれらは土に還って養分になります。「お手本は、山や地域の自然にある」とポール氏は言います。

ポール氏のナチュラルガーデンについては、ここではとても語り尽くせませんが、今回の「とっとり 湖山池ナチュラルガーデンができるまで」と、その実践をまとめた本が出版されています。興味のある方は是非どうぞ!ポール氏の素敵なイラストも入っていますよ。


ドライバーによる案内付きのベロタクシー
メインガーデンについてはこのくらいにしまして、その他のメイン会場内の見どころをご紹介します!
ナチュラルガーデンからは、「池」と呼ぶには広すぎる湖山池を眺めながらゆっくり散策するのもいいですが、まずは「みどりのまちゾーン」へと進み、「これからの鳥取」をテーマに出展された庭の数々と、「故郷の花模様」と題した自治体出展作品を楽しみましょう。
会場内は写真撮影しながら歩いた場合、一周するのに2時間半ほどはかかります。ナチュラルガーデンだけで早くも歩き疲れてしまった方には、ベロタクシー(有料)もおすすめです。

これからの鳥取

鳥取県知事賞受賞「Kids garden!!」
ここでは企業・団体による、「鳥取流緑化スタイル」を提案する庭・花壇・緑化作品が展示されています。作品はコンテスト対象となっていて、それぞれのプレートには既に各賞のマークが記されていました。
画像は金賞・鳥取県知事賞を受賞した、株式会社遠藤農園ガーデン事業部による作品です。資材も植物も、故郷である鳥取県八頭郡のものにこだわって作ったという庭は、そのまま家に移植したいような出来栄えです。


鳥取県知事賞受賞「Kids garden!!~ふかふかの肥えた土は、
植物だけでなく子どもたちも育てます。~」

審査員特別賞「思い出の庭」
もう一点ご紹介するのは、金賞・審査員特別賞を受賞したラブリーガーデンによる作品「思い出の庭」です。
セメントを使わずに積んだ石垣や、ガーデンハウスには古瓦をリサイクルして使用するなど、全体的にノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。小さな農を取り入れたガーデンは、子どもにも人気のようでした。




審査員特別賞受賞「思い出の庭」


故郷の花模様
こちらでは「風景や文化×ガーデン」をテーマに、21の自治体作品が展示されています。その中から、来年の全国都市緑化フェア会場となる静岡県・浜松市の作品をご紹介します。浜松では2004年に国際園芸博覧会と同時開催された実績がありますが、10年を経てどのように進化するのか楽しみですね。

静岡県・浜松市「赤富士と凧揚げ合戦」

「緑花の輪ゾーン」~「アースガーデン」へ
ここ「緑花の輪ゾーン」は、楽しい遊びと休憩エリアになっています。
下の画像は、鳥取県内の児童・生徒が思い思いに絵を描いた植木鉢がズラリと並べられたコーナーです。カラフルで、とても楽しいです。これを描いた子ども達も、きっと自分の作品を見るのを楽しみに来るのでしょうね。



蔵inガル展
「みんなの鳥取」後方にある屋内展示「蔵inガル展」は、鳥取の文化と風土を紹介する場所です。モニターで、ナチュラルガーデンができるまでの様子を見ることもできますよ。 休日にはワークショップが開催されることもあるので、参加を希望される方は事前にイベントスケジュールをチェックしていきましょう。参加費は無料~500円となっています。
その後方には、小さい子も大喜びの「わんぱくランド」があります。お子さん連れの方は、ここでの時間も考慮して、余裕を持ってお出かけくださいね。

また県民が企画した「みんなでつくるとっとりフェアプロジェクト」でも、さまざまな形で来場者をお・も・て・な・し!
この日は花・緑のクイズ参加者に、お茶のサービスがありました。紙コップにもポール・スミザー氏のイラストが……。

この後、湖山池側に折り返し、「花の岬ゾーン」に向かいます。ここでの見どころは、何と言っても「アースガーデン」です。

アースガーデン
アースガーデンへの入り口
エントランスでも来場者の目を楽しませてくれた砂像と植物のコラボレーションですが、ここではまた違った世界を演出しています。アースガーデンへの入り口は塀で囲われ、その先に何が待ち構えているのか、すぐには見えないようになっています。
本当はここでも秘密にしておきたいような気もするのですが、それでは会場に行くことができない方々に申し訳ないのでチラッとご紹介しますね!

アースガーデンから、右手が柱状、左手が小波の庭

広いターフガーデン。晴れた日は、
ここでお弁当を広げても
アースガーデンは、湖山池を背景に「砂地(すなじ)の庭」、「柱状(ちゅうじょう)の庭」、「小波(さざなみ)の庭」、「オアシス」と、4つの庭が展開しています。上の画像手前に砂地、奥に行くとオアシスが控えていてターフガーデン(芝生広場)へと続きます。
ここに敷かれている芝生「グリーンバード」は、鳥取県の園芸試験場が開発した高麗芝の改良品種とのこと。湖山池を眺めながら、ここで食べるお弁当は格別でしょうね。

またターフガーデンの画像左手には、「これからどのように変化していくのかが楽しみ」とポール氏が言っていたメドウ(meadow)のボーダーガーデンが広がります。

メドウとは、本来は牧草地のこと。
ここでは日本人に馴染み深い草花が牧草地から顔を出すイメージで



サテライト会場「とっとり花回廊」

PRキャラ「トリピー」などの
トピアリーも
フェアのサテライト会場の一つである「とっとり花回廊」は、米子駅から車で約25分(駅から無料シャトルバスあり)のところに位置し、「フラワードーム」と呼ばれる大温室を中心に東西南北それぞれに特色のある庭が配置され、四季折々の風景が楽しめる施設です。こちらの会場では、フェアのシンボルフラワーである「サンインギク」を使ったトピアリーが来場者を迎えてくれました。

バラが楽しめるヨーロピアンガーデン、オランダのキューケンホフをイメージした花の谷、ミストの漂う霧の庭園、水上花壇とハーブガーデンなどがありますが、圧巻は「花の丘」にある大山をバックにしたサルビアの毛氈花壇です。

青空とサルビアのコントラストも美しい

花のドレスで記念撮影?

各地点を結ぶ円形の長い回廊から風景を眺めたり、森の道に「ふなっこ池」、峠の茶屋や芝生広場まで足を伸ばしてもいいでしょう。

今回は残念ながら訪れることができませんでしたが、サテライト会場である東郷湖羽合臨海公園の燕趙園は、日本最大の中国庭園であり、フェアに合わせてカラーリーフガーデンが展開されているとのこと。また、あやめ池公園では、今ある樹林とタマノカンザシを活用したシェードガーデンの散策路が楽しめるということです。この他にも「まちなかスポット」として、フェアのPR花壇が展示されているところが各地に点在します。
鳥取駅前の花壇



フェアをより楽しむ、おまけ情報

ループ麒麟獅子

今回のフェア会場には鳥取駅前と、金沢と賀露の臨時駐車場からのアクセスが便利な無料シャトルバスが出ています。でも私のように遠方から鳥取を訪れたら、やはり鳥取砂丘とそこに隣接する「砂の美術館」くらいは足を運びたいもの。そこで便利なのが、ループバスです。

私が利用したのは、上の画像の観光スポットを巡る周遊バス「ループ麒麟獅子」。乗り降り一回300円ですが、一日券は600円で乗り降り自由です。この一日券を提示すると、施設により割引やサービスを受けられるのも嬉しいですね。

巨大な砂像を見ることができる、砂の美術館

鳥取市100円循環バス「くる梨」

もう一つ、市民の足と言える100円循環バス「くる梨(くるり)」というのもありました。このバスは循環エリアが狭く砂丘方面には行きませんが、フェア会期中に入場券・パスポート券(入場券引換券は除く)を降車時に掲示すると、一日乗り放題になるそうですよ。

この他、臨時路線バスに定額タクシー、レンタサイクルなど、会場へのアクセス方法がいろいろ用意されています。無料のシャトルバスと組み合わせたりすれば、効率よく観光できるのではないでしょうか。

記事のトリは、花トリピーで

鳥取と米子に空港を持ち東西に長い鳥取県は、フェアだけに限っても全ての会場を回るには時間がかかるでしょう。
素晴らしい風景、多彩な出展ガーデンなど、まだまだご紹介し足りない気もしますが、ぜひともこの機会に会場を訪れ、次はご自分でこの素晴らしいフェアを実感していただきたいと思います!

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